(金木犀の香りが台風でとんでしまいませんように)
金木犀はふだんは地味な樹です。
さも隠れているかのように、街路樹のどこかに目立たないように潜んでいます。
そして、いつも忘れたころにいい香りをさせて人間をはっとさせる植物です。
少なくとも、私はそう思っています。
金木犀の香りに包まれた数日間の町はまるで夢のようですから、
みんなが金木犀を知っています。
あのシャービックのようなオレンジ色、
一つ一つの花の、なんとかわいらしいこと!
うっとりさせて、そして秋が深まる頃には忘れてしまいます。
樹は逃げないから、いつもそこにいるってわかっているけれども、
毎年、毎年、花が終われば金木犀のことは忘れてしまいます。
そして金木犀は、ある時が来て、条件がそろうと花開き、
私をはっとさせて、何かを思い出させようとするわけです。
それは一年かけたかくれんぼなのでした。
ところが今年は違いました。
金木犀が咲いた、ということを友達のFacebookの投稿で知りました。
それで、そうか、咲いたのか!と思って、近所の金木犀を見に行くと
まだ咲いていなかったのでした。
金木犀が咲く前に、金木犀の樹に気づいたのは初めてです。
すやすや眠っているお姫様を覗き見たような気持ちでした。
かぐわしい香りで「おはよう!」って声をかけてもらうより前に、
こちらが先に気づいてしまったような。
新しい「はっ」でした。
クンクン鼻からくるいつもの「はっ」ではなくて、
目で見て、頭の中の考えが結びついての「はっ」でした。
毎年毎年、同じように「はっ」としていたけれど、
咲く前に金木犀のつぼみを見たのは初めてです!
毎年繰り返す同じ喜びもいいけれど、初めての楽しみというのもいいものです。
安田ヨウコ
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